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JKT48楽曲の歌詞に見るインドネシア人の宗教観 - クリスマスはタブー?

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写真:チームK3メンバーが「1!2!3!4! Yoroshiku!」の衣装で円陣を組む様子

目次

◆はじめに
◆カバー曲の歌詞改変
◆クリスマスはタブー?
◆「多様性の統一」を目指すインドネシア
◆一神教の信仰義務
◆まとめ

はじめに

JKT48にハマった人の中には、インドネシア文化にも興味を持つ人が多い。そんななかで、特に強い興味を引くポイントの一つが宗教観のようだ。一般的な日本人の感覚ではなかなか理解しがたいが、それゆえに好奇心をそそる。

例えば推しメンがイスラム教徒だった場合、その子の言動に多大な影響を与えているのだ。本エントリは、JKT48を通じてインドネシア文化、特に宗教観に触れるきっかけとなるような文章を書いてみたく、アップした次第。では続きをどうぞ。

少し長い文章なので、大筋のみ捉えたい場合は、まとめの項だけ読んでいただければ幸いです。


※宗教に関して専門的に学んだ経験がないため、誤りを含む可能性が有ります。もし記述の誤りや誤解を見つけた際は、訂正及び追記をしますのでご教授お願いします。

カバー曲の歌詞改変

2013年の7月に発売された2ndシングル「Apakah Kau Melihat Mentari Senja?(AKB48「夕陽を見ているか?」のカバー曲)」に、SKE48の「1!2!3!4! ヨロシク!」のカバー曲「1!2!3!4! Yoroshiku!」が収録された。

このシングルが発売される直前に、二期生の研究生16名が昇格する形で結成され、収録されたこの曲はチームK3の持ち歌となった。二期生にとってはじめての持ち歌となり、チアリーダー風のオリジナル衣装も手にした、二期生推しにとっては思い入れのある曲だ。

この曲の中で、「バレンタインデー、誕生日、これが恋の2大きっかけDAYなんだって!」という歌詞がある。カバーの元になったSKE48の「1!2!3!4! ヨロシク!」の歌詞では「クリスマス、バレンタインデー、誕生日、これが恋の3大きっかけDAYなんだって!」となっており、クリスマスの記載が抜けている。

これはどのような理由なのだろうか。

インドネシアは国民の約88%がイスラム教信者であるため、そこに配慮するためクリスマスの記述を外したとい。

上記のCDが発売された当初、友人やブログの読者から「インドネシアではクリスマスはタブーなのか」という質問をうけたことがある。難しい質問だが、端的に答えるのであれば答えはNO。

例えばインドネシアにおいてクリスマスは国民の祝日になっており、ショッピングモールではツリーの装飾がなされ、店員がサンタの帽子をかぶっていたりする。現地で生活し、このような光景をひとしきり眺めた後であれば、タブーといってしまうと語弊が有ると言わざるを得ない。

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写真:クリスマスのショッピングモール風景 ウェブメディア「The Mole」より

厳密に説明するならば、インドネシアは国民の約九割がイスラム教徒であるが、「イスラム国家」ではない。かぎかっこをつけているのには意味がある。イスラム教徒が多い国であることと、イスラム国家であることは全く意味が異なるのだ。

「イスラム国家」とは?

どのように意味が異なるのか。イスラム国家とは、文字通りイスラムの教義に則って統治される国家のことだ。神アッラーが預言者ムハンマドに与えたコーランや、それに基づいたシャリーア(イスラム法)に基づいて指導者が統治を行う。
わかりやすいように一番極端な例を挙げるならば、例えば、盗人の手足を切断する。婚外性交渉を行った場合石打ちの死刑を与えるなど、イスラム独自のルールで法律が定められている。
また、イスラム的価値観へ従うことが前提となっており、イスラム教徒でない人々への差別が当然のように存在する。
さて、インドネシアは「イスラム国家」ではない。どのような違いが有るのだろうか。

「多様性の中の統一」を目指すインドネシア

まずは簡単にインドネシアの歴史を振り返る。
1949年12月にインドネシアはオランダからの独立を果たし、翌年には憲法を制定。ところが1959年にスカルノ大統領が憲法を停止、そこから約40年ほど二代にわたって軍事独裁が続いた。
そして1997年のアジア通貨危機により政権崩壊。1999年ハビビ政権で総選挙が実施され、議会制民主主義へと移行する。2004年には大統領直接選挙制度を導入された。つまり、イスラムの規範に基づいた法体系ではなく、世俗主義の、いわゆる西欧的議会制民主主義国家が導入されているのだ。

そしてもうひとつの大きなポイントは、「多様性の中の統一」をスローガンに国是がさだめられていること。1万8千以上の島が存在し、2億3000万人以上の人口とを誇るインドネシア。300の民族、400の言語からなるといわれる多様性をまとめるための国是「パンチャシラ」では以下の五項目がうたわれている。

1:唯一神への信仰
2:公正で文化的な人道主義
3:インドネシアの統一
4:合議制と代議制における英知に導かれた民主主義
5:全インドネシア国民に対する社会的公正

どれも重要では有るが、本エントリでは1番の唯一神への信仰について触れる。

一神教の信仰義務

インドネシア共和国憲法29条は、唯一至高神へに対する信仰と信教の自由と、それぞれの宗教と信仰に従って信徒としての義務を遂行する自由を定めている。この精神は、住民登録においても宗教の記載が義務づけられているなど、生活の中にも浸透している。

ここでいう一神教とは「イスラム教」「カトリック」「プロテスタント」「仏教」「ヒンドゥー教」「儒教」の6宗教。ヒンドゥーって多神教じゃない?とか仏教って一神教か?という疑問もあるだろうが、このエントリでは一旦触れないことにする。

いずれにせよ、イスラム教の信仰が義務づけられているのではなく、様々な宗教の国民が暮らす国家であるというのが大きなポイントだ。

まとめ

このエントリの冒頭の問いは何だったか。JKT48の楽曲では「クリスマス」という単語が削られていた。このことから「インドネシアではキリスト教の概念であるクリスマスがタブーなのか」ということだ。

このことを考えるためのポイントは二つ。

①インドネシアは世俗主義かつ議会制民主主義国家である
②インドネシアではイスラム教だけでなく、他の宗教信仰も認められている

つまり、冒頭の楽曲歌詞を見て「インドネシアではクリスマスはタブーなのか」と疑問を持った方にとっての答えは、上記二つの点からNOであるといえる。

とはいえ、どんな国やグループにも過激派は存在している。キリスト教徒の教会を破戒するような無法者も少なからず存在する。

そういったリスクに備える形で歌詞から除外したのではないだろうか。断食月に興行を控えるといった試みも、そういった観点から行われている。

参考:JKT48に見るイスラム教徒の断食文化

JKT48に見るイスラム教徒の断食文化 - JKT48推し!

またコメント欄でKOJIさんからいただいた意見では、他の宗教の人にとってクリスマスはただの何でもない休日であり、告白のきっかけデーとしてのロマンチックさを感じられないため、歌詞から外しているのではないかという見方もある。これは的を射ているのではないだろうか。

いずれにせよ、JKT48を通してインドネシアへ興味を持つ方の一助になれば幸いである。